後悔しない「終の棲家」の建て方
2022/01/10
退職前後に住まいづくりを考えられる方の中に、「終の棲家だから小さくて安い家で良い」と言われる方がおられます。
確かに、30代で住まいづくりをされる方よりも住む期間は短くなりますし、子ども部屋が必要ありませんので必然的にコンパクトになります。
では、そんな第二の人生が始まる時に住まいづくりをされる方は、どのような点を注意して住まいづくりをしたら良いのでしょうか。
時間
22歳から65歳までの生涯労働時間は、平均9.5時間/日×250日/年×43年間で102,125時間です。
65歳から85歳までの引退後自由時間は、平均14時間/日(寝ている時間や家事の時間を除いた時間)×365日/年×20年間で102,200時間です。
つまり、「老後の時間」というのは、「生涯労働時間」と同じだけの時間があるということになるのです。
その間、本当に生活するためだけのコンパクトな住宅で良いのでしょうか。
老後の楽しみ
これまで、長い年月、仕事や家事、育児と頑張って来られたからこそ、引退後は何か楽しみを見つけた第二の人生を歩みませんか?
今現在は趣味や楽しみは無いという方でも、始めてみると案外ハマったという方もたくさんおられます。
10万2千時間の自由時間をただただボーっと過ごすのではなく、楽しみを見つけ、その楽しみが実現できる住まいづくりにしませんか?
家庭菜園
家庭菜園は、何をいつ植えていつ収穫するという事を考えたり、ほど良く体を動かすため、頭と体の運動になり認知症予防にも良いと言われています。
また、自身で育てた野菜で奥様やご家族に料理をふるまうのも良いと思います。
その時に、畑の日当たりや水はけを考え配置計画をする必要がありますし、土のついた野菜を洗う外流しが合った方が便利ですし、どんなキッチンやダイニングにして料理や食事を楽しむのか少し工夫するだけで、特別に費用がかかるわけでもなく、老後に食を楽しむ住まいづくりとなり楽しい10万2千時間が送れることになりそうです。
コーヒー
コーヒーに含まれるポリフェノールは、血糖値を下げ、血液をさらさらにし、ガンを予防し、アルツハイマーを防ぐといった老後に嬉しい効果がたくさん含まれています。
また、始めてみるとコーヒーの奥の深さに豆や道具様々興味が広がり、自分好みの豆を探したり、カフェ巡りをしてコーヒーの淹れ方を勉強してみるなんていう楽しみも生まれます。
その場合、特にこだわりの無いキッチンではなく、喫茶店のマスターになった気分でコーヒーが入れられるような対面型のキッチンにしたり様々な種類のコーヒー豆を並べて見たりするのも楽しいです。
盆栽
盆栽は、作品を通して自身がどのようなことを伝えたいのか、世界観を作りあげていくものです。
これまでの人生の経験値、春夏秋冬という季節感、今後の人生の希望などなど、自分自身と重ね合わしたり盆栽と向き合ったりしながら作りあげる感覚は何事にも代え難いものがあります。
盆栽をどんな空間で作り上げるのか、その作品をどの場所から眺めて楽しむのかによって空間づくりを考えてあげると、同じおうち時間でも、とても豊かな時間となります。
読書
読書は、脳を活性化させる効果があり認知症対策にもなります。
好みの本を購入して何度も読むのも良いですし、好みの本の背表紙でインテリアのように楽しむのも良いと思います。
しかし、年齢を重ねると目が見えにくくなる方が多く見受けられます。目の筋肉を鍛えたり、手術をしたり、様々な対策がありますが、住宅として出来る事は、窓と照明によって明るさをコントロールする事です。
光を眩しく感じるのか、明るくないとだめなのか、色温度によって見え方が異なるのか、人によって目の症状も異なると思います。
明るさのコントロールをするだけで、読書の時間をより楽しんでいただく事も可能となります。
チェスや将棋
チェスや将棋は、戦略を考えるため脳を鍛え、認知症対策にも効果的です。
しかし、認知症対策は、考える事よりも何よりも人との交流が最も大切だと言われています。
近所の友人や家族と会話を楽しみながら楽しむと一石二鳥です。
チェスや将棋を楽しむ場合は、縁側で日向ぼっこしながらが良いでしょうか。掘りごたつで正座することなく温かい状態で楽しむのが良いでしょうか。 誰とどこでどんな風に楽しみたいのか考えた空間づくりをすると、より快適に楽しむことが出来ます。
孫との時間
高齢者の方に対する何に生きがいに感じているのかというアンケートで、男性は40.7%が女性は55.4%が「孫との交流」が入りました。
男女差はあるものの、どちらもたくさんの趣味や楽しみがある中で半数が孫との交流のなるほど、楽しい時間だという事が分かります。
息子様や娘様、お孫様が「行きたい!」と思ってくださるそんな空間づくりも重要なポイントです。
住宅性能
住宅を建築する際の法律は、初期性能(新築時の性能)の基準は有りますが、長期性能(住み続けた時の性能)の基準はありません。
現在の日本の住宅の平均寿命は約30年と言われています。
30年で崩れてしまうということではありません。
30年かけて、住宅性能(耐震性能/断熱気密性能/耐久性能)が落ちてしまうという事です。
つまり、定年退職前後で住宅を建てた場合、体の老化と共に住宅性能の老化も進み、体力が落ちる頃には住宅性能が機能を果たさなくなっている可能性があるという事です。
本当に生活するためだけの住宅性能が持続しない安い住宅で良いのでしょうか。
平均寿命は年々延びています。しかし、最も伸ばさないといけないのは健康寿命です。
寝たきりの状態で生き続けるのではなく、健康で楽しく生き続けることが出来る、変わらない住宅性能の快適な住まいを検討されることをおすすめします。
まとめ
「そんなに長くは住まない」や「残りの人生、過ごせたら良い」。だから、「小さくて安く家で良い」と考えている方は、一度考え直してみてください。
これから過ごす人生の自由時間は、これまで一生懸命働いてきた生涯労働時間とイコールなのです。
更に、これから過ごす時間のほとんどが家の中になり、これまで以上に家と触れ合う時間が増えるのです。
これまで一生懸命頑張ってきた分、第二の人生は快適な住宅で楽しく暮らす人生にしませんか?
《執筆者》
一般社団法人 住宅研究所
「暮らし視点の住まいづくり」研究開発担当
主任 谷口真帆香