老後を見据えた最適な住まいづくりとは
2022/01/03
令和2年度に国土交通省が発表した住宅市場動向調査で、新築注文住宅を取得された方の年齢で最も多かったのが30代の45.8%という事が分かりました。
※「令和2年度 住宅市場動向調査 報告書」参照
最近は、30代という現役世代真っ只中にも関わらず、「老後の事を考えて平屋を検討している」という方がとても増えています。
確かに、将来の事を考えて住まいづくりをすることはとても大切です。
しかし、将来の事だけの短絡した考えで家の形を決めてしまうのは危険です。
年代ごとの変化に対応する住まいづくり
令和2年に厚生労働省が発表した簡易生命表で、男の平均寿命は 81.64 年、女の平均寿命は 87.74 年という事が分かりました。
また、平均余命表からは、30歳で家を建てた場合、男性は残り52.03年、女性は残り57.91年住まい続けることになるという事も分かりました。
※「令和2年簡易生命表」参照
この、長い年月を住まうことになる住宅を「老後」の期間だけの狭い視野で住まいづくりをしてしまって良いのでしょうか。
家族の成長と共に変化する家族の形
➀幼児期
歩けるようになったり喋られるようになったりと出来る事が少しずつ増え、悩んだり楽しんだりしながら過ごす時期で、空気環境や温熱環境などお子様の安全を考えた空間づくりが大切です。
②学童期
勉強や運動、お友達と遊ぶなど様々な事を経験をしながら成長していく時期で、お子様の勉強や宿題を見てあげたり、庭で活発に遊んだり出来る空間づくりが大切です。
③青年期
アイデンティティーが形成され思春期を迎えたり、将来の夢や目標を考えたりする時期で、親子のほど良い距離感が保たれつつ、コミュニケーションが取れる空間づくりが大切です。
④成人期
親離れ子離れが始まったり、結婚して孫を連れて帰ってきたりする時期で、新たに増えた家族と食事を楽しんだり孫と触れ合う時間を楽しむ空間づくりが大切です。
更に15年ほど経つと、自身の現役引退と共に第2の人生が始まり、夫婦で家庭菜園を楽しんだり、旅行を楽しんだり、陶芸を楽しんだりする時期へと変化します。
その家族がこれから様々成長し変化していくという段階で老後の事だけを考えて短絡的に「平屋!」と断言するのは早いのではないでしょうか。
あくまで、平屋を否定している訳ではありません。
しかし、土地面積によっては平屋にすることで、家族で過ごす20~30年の貴重な時間を過ごすLDKが狭くなってしまったり、平屋を実現しつつ広いLDKも実現するというために、土地価格が高くなり住宅性能を落とした住まいづくりになってしまっては元も子もないという事です。
健康寿命
そもそも老後住みやすいように過ごすことを考える前に、老後如何に健康に過ごせるのかという健康寿命を考えた住まいづくりを考えることが大切なのではないでしょうか。
家の階段が上がれなくなるということは、旅行や買い物、外に散歩に行くことすら困難になっている可能性が高いということです。
むしろ、寝室に上がる時くらいの1日1回程度の家の階段の上り下りくらいしないと逆に足腰が弱っていくことになるという風にも考えられます。
現在は、建築基準法で階段の傾斜も昔の家より緩やかになっていることや手摺の取り付けも必須になっているという事もあり、上り下りしやすくなっています。
また、2階建てに対する不満で1番多いのは、洗濯物を持って2階のベランダに干さなければいけないという事ですので、洗濯物を干すスペースを水廻りと同一階にしてあげる事で解消します。
車いす生活になってしまった場合は、収納を1ヶ所潰してエレベーターが取り付けられるように考えておくことも出来ます。
また、施設に入るのか、家で生活し続けるのか、時代とともに新たに生まれるサービスや環境もあるでしょうし、そもそも現段階で50年先の老後をベースにした住まいづくりをする事自体が、少しナンセンスにも感じます。
将来を見据えることはとても大切ですが、やはり平均寿命ではなく健康寿命を延ばす住まいづくりをし、長く元気に楽しく過ごせる住まいづくりにしませんか。
※「イニシャルコストとランニングコスト」の記事参照
まとめ
平屋や2階建てといった形状を先に決めてしまうのではなく、あくまでどのような暮らしをしたいのかが先にあったうえでどのような形状が良いのかを考えてみましょう。
そして、全てのステージで楽しむ事を考えた結果、平屋にしたということは良いと思いますが、子育て世代の平屋の住まいは廊下面積が長くなったり、日が入りにくいなどデメリットも多くなりますので注意してください。
人生は、いくつものステージがあり、家族の形はその都度変化します。
未来を予想することは誰にも出来ませんが、ある程度どういった人生にしたいのかを描き、どのステージでも健康で楽しく過ごすために、どんな暮らしがしたいのか、その暮らしを実現するためにどんな空間づくりをすべきなのかを考え、体が動けなくなるなどの最悪の事態は、その時に対応可能なように準備しておくというような、広い視野を持って住まいづくりされることをオススメします。
《執筆者》
一般社団法人 住宅研究所
「暮らし視点の住まいづくり」研究開発担当
主任 谷口真帆香