住まいづくりは思い切ってメリハリをつけた方が楽しい暮らしができる

もう40年以上も前の話しですが、私の建築の師匠が設計を請負った観葉植物の植木屋さんの住宅の図面を観たときに思わずのけぞりました。
1階の床が無く「土間のまま」だったのです。
隣接する仕事場の温室としょっちゅう行き来すのでそうしたというのです。
LDKはすべて転圧して固めたその土地の土のままの土間です。

大小さまざまな観葉植物の鉢植えに囲まれて森の中のようなLDKです。
何か「常識という枠」の中の発想しかできなかった私は啞然。
その土間の住宅のオーナーはあっけらかんとして「これ、いいですね」と奥様も3才のお子様も大喜びでした。
2階に上がる階段下で靴を脱いで上がると2階は別世界です。

個々のお客様の考え方や暮らし方、まして価値観は多様です。
いろいろな世間の常識を脱ぎ捨てて「自分たちは何をしたいのか」と「素」の状態で素直に考えるところから住まいづくりを始めましょう。

「プラン、プラン、プラン」と住宅会社/工務店はプランをつくりたがる

住宅会社/工務店は「家というモノを造るプロ」ですから早くモノが作りたいのはよくわかります。
そのためにどのようなモノを造ればよいのかということでプラン作成を急ぐ傾向にあります。
「とりあえずたたき台のプランから」という話が良く出ます。
営業もプランをお客様のところへ作って、持って行けばなにか「仕事をしている気分」に成れます。
ですからあっちこっちで「プラン、プラン、プラン」となってしまいます。

そういう話をお聴きすると「とりあえずプラン」は何に基づいてプランを作成しているのだろうかと不思議に思います。
「まあだいたいどのお客様も4LDKですから」というのが営業の答えです。

そこで「そのお客様はどのような服を着ていたのか、奥様は眼鏡をかけておられたのか?」と尋ねると大抵の場合、そういう営業は「わかりません。覚えていません」という答えが返ってきます。
お客様を見ていないのです。
まったく驚きですが「そんなもんでしょう」的な顔で不審そうに私の顔を見て来ますから、どうも「常識外れは私の方」らしくいつも苦笑いをしてしまします。

師匠のおかげでどうやら私は「業界の常識の枠が外れてしまった」ようです。

「どのような時間を大切にしたいのか」という視点で

リビングに大きな吹抜を創ってそこにオープン階段を設置するとしましょう。

吹抜上部からの日差しがいつも降り注ぎ明るいリビングが出来そうです。
光を取り込みリビングへと導くライト・シャフトです。

リビングの窓を開けて2階の吹き抜けに面するどこかの窓を開ければ無風に近い状態でも爽やかな風が抜けて行きます。吹抜は風を生み出すウィンド・シャフトです。

リビングに居ながら吹き抜けを介して2階の子供たちの様子も何となくわかります。
気配を感じるコミュニケーション・シャフトです。

リビングの吹き抜けには様々な機能がありますが7才のお嬢様がいるお父様にとってこのリビング階段は格別の価値を持つものになるかもしれません。
お嬢様が大学を卒業して社会人となって一人暮らしをはじめられるとすれば、一緒に暮らせるのはあと15年間ほどです。
毎朝階段を下りてくお嬢様の笑顔、帰宅されたときのお帰りなさいの笑顔、1日に2回の愛娘の笑顔を見るとして2回/日×365日×15年間=10,950回の笑顔です。
確かに光と風とコミュニケーションのシャフト機能がリビング階段の吹き抜けにはありますがかけがえのないのはお嬢様の10,950回の笑顔です。

リビング階段とせず吹抜を設けないなら300万円くらいの節約になったと思います。
言い方を変えれば15年間で10950回のお嬢様の笑顔代が300万円ということですがこれは値段をつけて考える価値の問題ではないでしょう。

「プライスレスの価値」がここにあります。

機能で考える住宅への投資、それを超える価値ある投資

リビングの吹き抜けは3つの大きな機能があり、それだけでも十分投資対効果はあると思います。

これから生涯に亘って半世紀以上住み続ける住宅の、しかも一番長く過ごすリビングの採光もたっぷり、風通しもよく、家族間のコミュニケーションも良くなるという吹抜の機能はそれだけでも十分かもしれません。
それ以上に大切な時間は「お嬢様の笑顔を観れる」という毎日の暮らしです。

半世紀以上に亘る暮らしの場の機能で考えて投資を判断する場合と「プライスレスの価値」で判断する場合がありますが、このプライスレスの価値は住まいづくりの最重要要素です。
大切にしたい時間がそこにあるはずです。
最高の環境になるように重点的に予算配分を行いましょう。

予算のメリハリ配分は住宅会社/工務店には理解されにくい

住宅会社/工務店には「標準仕様」とか「基準になるいつもの仕様」がある場合が多く、リビング周りのサッシ、吹き抜けの階段はデザインにもこだわって、床材のレベルもアップグレードしてここだけはいい空間にしましょうという考え方は、中々分かるようでわかってくれない場合がありどこか「抵抗感」があるようです。

特に「プライスレスの価値」につてはゆっくりと住宅会社/工務店へ説明をする必要があります。

「大切にしたい時間」を見つけ出すには暮らし視点の設計パートナーが必要

ご夫婦で話し合って「大切にしたい時間」はある程度見つけ出せると思います。

「大切にしたい時間」は「重視しているポイント」がご夫婦で顕在化している場合と「隠れている重視ポイント」という日常の当たり前すぎて潜在化してしまっている「重視ポイント」があります。

先ほどのお嬢様の笑顔はこの「日常の当たり前すぎて潜在化してしまっている『隠れている重視ポイント』」です。
気づけば「確かにその通り」なのですが素通りしてしまいがちなのが「隠れている重視ポイント」ですから「第3者の眼で見つける手助け」が必要です。

暮らしインタビューという暮らし視点での「どのような時間を大切にしたいのか」を系統立てて見つけ出し共有化していく手法が必要です。

プランづくりには根拠が必要です

その根拠は「お客様のお考え、暮らし方、価値観」の中にあります。

各社のモデル住宅の中で最も気に入ったモデル住宅をベースに考えると分かりやすいと思います。
そのモデル住宅に「住むとして考えてみる」と気づくことも多く、「発見」がいくつもあると思います。

暮らしインタビューと併せて「住いづくりのここに投資する」という「暮らしの重心」をしっかりつかみ、プランづくりの根拠を明確に持ちましょう。

まとめ

「住まいづくりは思い切ってメリハリをつけた方が楽しい暮らしはできる」のですがそのメリハリをどのようにつけるのかということが難しいようです。

ご自身で「大切にしたい時間」をまず考えていただきながら暮らし視点の設計者と一緒に「隠れている重視ポイント」を含む大切な時間を再発見し「暮らしを楽しみ人生を楽しむ住まいの実現」を目指しましょう。

暮らしインタビュー機能を持っている住宅会社/工務店は少ないので見つからない場合は当研究所へお問い合わせください。
info@housing-labo.casa

《執筆者》

一般社団法人 住宅研究所
代表 松尾俊朗
一級建築士

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