イニシャルコストとランニングコストのバランス
2021/12/06
家を考える際に、1番気になるのがコストと言っても過言ではないのではないでしょうか。
マイホームを建てたことで、生活が苦しくなって、たまに美味しい物を食べたり、旅行に行ったりという娯楽が全くなくなるのも防ぎたい…
そう思って、ランニングコストを考えずにイニシャルコストを下げることばかり考えて住まいづくりをしてしまうと、後々後悔することになり兼ねません。イニシャルコストとランニングコストはどこをどう見て判断すべきなのか参考にしていただければ幸いです。
住宅は「消費」ではなく将来への「投資」
住宅は、傷んだり飽きたら買い換えられる洋服とは違って、簡単に買い替えたり建て替えることは出来ません。
25歳で家を建てた場合最長75年。35歳で家を建てた場合最長65年。65歳で家を建てた場合でも最長35年住まい続けることになります。
という事は、住宅というのは世の中の購入する商品の中で唯一「消費する商品」ではなく、「将来への投資商品」ということになります。
まず、上記の事を前提にイニシャルコストとランニングコストは考えていかなければいけません。
ランニングコストとは
ランニングコストと聞くと、光熱費やメンテナンス費だと思っていませんか?
もちろん、それらも大切な要素ですが、光熱費やメンテナンス費は建てた住宅会社や材料等によって、数百万円の差である事がほとんどでしょう。
最も考える必要のあるランニングコストは、人の命や健康を支える住宅性能そのものです。
耐震性能や断熱気密性能、耐久性能が低下してしまっては、耐震補強や断熱材の入替などを考えると数百万円では効かず数千万円となる事も考えられますし、建替となると何千万円という金額が2回かかるということです。また、大きな災害が起きた際に命が守れるかどうかというのは金額に代えることすら不可能です。
本当の意味でのランニングコストということを理解した上で住宅会社や住宅性能を選択しましょう。
日本の住宅の平均寿命
日本の住宅の平均寿命は残念ながら約30年と言われています。
30年経つと倒れてしまうという事ではありません。
耐震性能や断熱気密性能、耐久性能がほとんど機能を果たさなくなってしまう可能性があるということです。
要因は様々ありますが、日本は地震大国で住宅が揺らされる回数が多いという事や、一見揺れているようには見えませんが台風などの強風で動かされているという事から、耐震性能の緩みや断熱気密性能の低下などが起こってしまうという事です。
25歳で建てた方の30年後は55歳で残り45年。35歳で建てた方の30年後は65歳で残り35年。耐震性能や断熱気密性能、耐久性能がほとんど機能しなくなった中で過ごすのか、第二の人生が始まり始めたところで再度建て替えなければいけなくなるという事です。
また、65歳で建てた方の30年というのは、30年経った時にいきなり性能が無くなるのではなく、徐々に落ち続けるということになりますので、体力が落ちていくと同時に住宅性能も落ちていき、伸ばさなければならない健康寿命に影響が出てくる可能性があるという事です。
そのため、一生涯持続する性能を取り入れた、消費ではなく将来への投資という考えでどのレベルの住宅性能を取り入れるべきなのか、慎重に判断しましょう。
快適環境
住宅の中で過ごす時、「夏」はノースリーブに短パンだけど「冬」はもこもこの上着にレッグウォーマーで過ごしていませんか?
これほど季節によって住宅の中の温度差によって服装に差があるということは、住宅性能(断熱気密性能)が機能していないという可能性があります。
それは、新築当初から低い性能であったか、もしくは存在していた性能が徐々に低下したのかということですが、現在、日本の住宅を新築する際、住宅性能は「等級」という基準で、ある一定以上の性能を要しなければならない法律が定められていますので、初期性能が極端に低いという事は考えにくいため、徐々に低下したというのが正解でしょう。
夏は暑くて動く気がせず家事が進まなかったり、冬は厚着で肩こりが酷くなったり冷え性が酷かったりしていませんか?
夏も冬も、季節バリアフリーの性能を兼ね備えられた住宅を選択しましょう。
住宅の中で過ごす時間
人は、人生の7割を住宅の中で過ごしていると言われています。
現役時代の40年間は約60%。引退後の約20年間は約90%。一生涯で計算して約70%ということです。
それほどに長く過ごしている場所が、「住めたら良い」の住宅やイニシャルコストだけを考えた「出来るだけ安く」の住宅で本当に良いのでしょうか。
ご自身が人生の70%を過ごされる住宅の中でどのレベルでの快適な環境で過ごしたいのか考えた住宅性能を選択しましょう。
まとめ
初めての住まいづくりで、イニシャルコストとランニングコストのバランスを判断するのは中々難しいと思います。
しかし、ご自身やご家族が一生涯幸せに過ごすための住まいづくりであるという1番の目的を見失わないよう、人生の7割を過ごしている住宅がどのレベルの性能であるべきなのかを考え、イニシャルコストだけで判断せず、光熱費やメンテナンス性能というランニングコストだけでもなく、住宅性能そのものも含めた住まいづくりをオススメします。
《執筆者》
一般社団法人 住宅研究所
「暮らし視点の住まいづくり」研究開発担当
主任 谷口真帆香