RC外断熱住宅の耐久性能
2023/09/07
建物の寿命は、どのような要因で決まるのでしょうか。まず、建物は下部構造体という「基礎」部分と、上部構造体という「建物」部分に分けられます。日本で建築される全ての建物(一部の仮設などを除く)は、鉄筋コンクリートの基礎に緊結されていることと定められています。そのため、上部構造体という建物の構造の如何に関わらずその寿命は、基礎の寿命、つまり鉄筋コンクリートの寿命で決まると言っても過言ではありません。
住宅(上部構造体)の耐久性
住宅を建てようとする際に、今でも「木造が良い」「鉄骨が良い」などと論議になることが、よくあると思います。
こうした論議では、耐久性の話ばかりではないと思いますが、一つの大きな論点でもあったように思います。住宅の構造によって耐久性の差はあるのでしょうか。
耐久性を重視してこなかった日本の住居の歴史
住宅と言えば木造住宅という概念は今でも定着しています。既存建物での木造住宅のシェアは、昭和53年以前は80%を超えていましたが、その後一貫して低下してきていますが、平成20年においても58.9%と約6割を占めています。特に一戸建では木造が2,543万戸で、一戸建全体の92.6%と9割以上を占めています。
森林資源は、山間部中心とはいえ、国内に広く拡がっており、入手し易かったということも一要因でしょうし、耐震技術が未発達であった時代には、木造のように軽量であるということ自体が地震対策であった事も事実です。
地震の外にも台風、洪水、土砂崩れなど、災害の多い日本においては、失ってもすぐに再建できる木造住宅という考えが長く定着していたと思います。江戸時代、当時世界最大都市であった江戸では、「明暦の大火」「目黒行人坂の大火」「丙寅(ひのえとら)の大火」の三大大火をはじめ大火災が繰り返引き起こされました。どうせ焼け出されるなら簡易な木造で十分という「住宅=仮設=木造」という江戸っ子的な考えもあったと思います。
明治の初期に来日した欧米の婦人が、家事で逃げ出す日本人が茶わんと箸を土間に埋めて、ニコニコして、おしゃべりをしながら避難して行ったことを、「災害慣れした日本人の生活」として、目を丸くして見ていたと旅行記に記しています。こうした歴史の中で、住宅は「スクラップ&ビルド」という考え方が、庶民の間には、未自覚の内に定着してしまったのかもしれません。
戦後の復興と高度成長を経て
第二次世界大戦で420万戸の住宅が焼失し、戦後すぐの時期には、深刻な住宅不足に陥りました。特に戦後日本の復興を重化学工業中心に産業構造をシフトするという国家政策で、京浜地区、中京地区、京阪神地区という大都市圏に人口を集中させることになり、住宅ニーズと供給力のギャップが拡大しました。この時期には、とりあえず住むところを、という考えが先行し、建物の耐久性まで考えが及んでいなかったという時代であったと思います。戦後初期には、旧建材(木材や土、紙といった自然素材)が主要な建材であり、施工側は、経験豊富な大工さんによる住宅建設が、進められましたが、これでは、旺盛な住宅需要のニーズに追いつかないと、新建材が開発され、プレハブ住宅(工業化住宅)も加わって、先ず、何と言っても量をこなすことが、建築業界の最大テーマでした。この期間に、新建材とプレハブ住宅は安物という風評が立ち、その後長く引きずることになります。確かに初期の建材は、劣化が早く、そう言われても致し方ない品質であったと思います。実際には旧建材で造っていた時代の住宅は、土壁、瓦、大黒柱に代表されるような旧の建て方の木造住宅であったため、建設期間も非常に長いという「手造り」が常識というのに比べて、あっという間に出来上がってしまう、新建材で造った家は「直観的に安物」というイメージを持たれたのかもしれません。
その後、住宅の耐震性能、温熱環境性能等の向上とともに、耐久性能も向上しました。こうした技術的な発展に加えて、持続可能な開発目標というSDGsの考え方の広がり、本物志向、良いものを長く使うなどと言う考え方の台頭によって、住宅の耐久性は大きく進歩を遂げてきました。
「住宅を持てればよい」から、「長期間性能を維持する」耐久性へ
極端な表現をすれば、戦後すぐまでの住宅は「雨露がしのげればよい」というのが、その概念でしたが、21世紀も四半世紀を迎えようとしている今日においては、耐震性能、温熱環境性能、維持管理性能など多様な性能を含めた複眼的な視点で、実用に供することができるのか、という意味での耐久性を考える必要もあります。「建物がいつまで持つかどうか」という論議ではなく「安心安全快適に住み続けられるのか」という視点に向かい始めた段階です。現在の建築基準法を遵守して建築された住宅はどのような構法であっても、30年は持つでしょう。ただ30年後からさらに先の時代にも「安心安全快適に住み続けられるのか」というと、全部が全部そうではないというのが現状だと思います。
冒頭の「日本で建築される全ての建物(一部の仮設などを除く)は、鉄筋コンクリートの基礎に緊結されていることと定められており、上部構造体の構造の如何に関わらずその寿命は、基礎の寿命、つまり鉄筋コンクリートの寿命で決まると言っても過言ではありません。」という話しに戻しましょう。
上部構造体は、構法別の耐久性については、それぞれに弱点はありますが、対策次第では、その弱点を克服することはできます。
例えば、木造は腐りやすく、シロアリに弱い等の弱点がありますが、壁内結露防止策、防水処理、防蟻処理などを施し、適切にメンテナンスを行えば、十分な期間の耐久性は確保できます。軽量鉄骨造は、錆という問題がついて回りますが、適切で高耐久な防錆処理を行えば、十分に高い耐久性を発揮します。つまりどのような構法であっても上部構造体については、現在の耐久性を高める技術を適切に適用すれば、十分な耐久性は得られます。
では下部構造体の鉄筋コンクリートの基礎の弱点はどこにあるのでしょうか。
住宅の寿命を決める鉄筋コンクリートの基礎の耐久性
鉄筋コンクリートの基礎は、一言で言えば丈夫です。上部構造体の重量を支え、建物が受ける地震力や風力を最終的には地盤に逃がすという重要な役割を担っています。そのために、圧縮力には、圧倒的に強いコンクリートが引き受け、引っ張り力に対しては鉄筋が引き受けるという、コンクリートの長所と、鉄の長所を活かした、ハイブリッドな構造です。この圧縮力と引張り力に強い鉄筋コンクリートが強度を発揮するには、酸化しやすい鉄を強アルカリであるコンクリートで保護し、コンクリートと鉄筋が一体化し続けることが必要です。劣化の原因は主に空気中の二酸化炭素です。コンクリートの主成分である、セメントの水和生成物の水酸化カルシウム(Cs(OH)₂)〈強アルカリ性〉と二酸化炭素CO₂が結合し、炭酸カルシウム(CaCO₃)〈中性〉と水H₂Oに徐々に変化することで、コンクリート内部に配置された鉄筋周囲にまで、コンクリートの中性化が進むと、鉄筋が錆ることによって膨張し、この膨張圧でコンクリートのヒビ割れや剥離が生じます。鉄筋の腐食が更に進行することによって、強度を失っていきます。建設地の環境(ex.海辺の近く等は劣化が進みやすい環境)にもよりますが、100年程度は十分に強度を発揮し続けます。適切な点検と補修を行えば寿命を、さらに伸ばすことも可能です。いずれにしても、どのような上部構造体であっても、鉄筋コンクリートの基礎の耐久性で、建物寿命は決まるということです。
RC外断熱住宅は高蓄熱蓄冷容量と高耐久性能のスゴイ住宅
鉄筋コンクリートは、その優れた強度と耐久性で、全ての建築物の基礎として指定されています。鉄筋コンクリートという、優れた建築素材を上部構造体としても採用しているのが、RC住宅です。
また、コンクリートという素材は、大きな熱容量を有しているため、躯体をすっぽり外側からくるんでしまう、外断熱工法によって、温熱環境面で構造躯体自体を、高蓄熱蓄冷容量として活用することができます。そのため一般に多くみられる、内側断熱のRC造や、その他の木造、軽量鉄骨造の高気密高断熱住宅では得られない「異次元の快適さ」を得ることが出来ます。また、木造や軽量鉄骨造の外張断熱工法では、RC造のような、ケタ違いの大きな蓄熱蓄冷容量は、得られませんので快適性の水準は全く異なります。
コンクリート同時打込外断熱
ハウジングラボでは、RC外断熱工法として、ネオマフォーム(ポリフェノール板)という、厚み当たりの性能が最も高い上に、日本で施工実績が十分にある信頼の断熱材を構造躯体の外側に施工する外断熱工法を採用しています。
鉄筋コンクリート壁の外側を高性能なネオマフォームですっぽりと包み込むことで外断熱化を実現しています。断熱層のネオマフォームと躯体を保護するためにさらに外側に、遮熱材/通気防水シート、通気層を設け、仕上材兼躯体保護として外装材(アルミスパンドレル他で建物を保護)で仕上げる外断熱の外壁構成です。
ネオマフォーム外断熱工法
ネオマフォームの熱伝導率は、各種断熱材の中でもトップクラスのλ=0.020[W/(m/K)]の高性能で、他の断熱材に比べて同じ厚さで高い断熱性能を発揮します。
プラスチック系断熱材の基本構造の中でも精緻な断熱材が「ネオマフォーム」
「出典:旭化成株式会社 https://www.asahikasei-kenzai.com/akk/insulation/neoma/about/index.html」
プラスチック系断熱材は、樹脂を発砲させることで樹脂の中に気泡を構成しています。その中でも特に高性能なネオマフォームは、素材はフェノールという熱に強い樹脂で、断熱性の高いガス(環境に配慮した炭化水素)で発泡させ、そのガスを気泡の中に閉じ込めることで、高い性能を実現しています。髪の毛の太さほどの(100ミクロン未満)の微細な気泡構造で、その気泡の小ささは、他の断熱材と比較しても際だっています。
この微細な気泡により長期間の性能劣化を防ぐ効果も製造元の旭化成のデータによっても、確認されています。
ネオマフォームの耐燃焼性能
「ネオマフォーム」はフェノール樹脂という「熱硬化性」という特徴を持ったプラスチック製品です。多くのプラスチック製品が熱を受けると溶けるのに対し、フェノール樹脂は、過熱に対して燃えにくく、直接炎を充てても、部分的に炭化するだけで燃え拡がったり、燃え上がるようなことはありません。そのため1900年代初頭から、高い耐熱性、難燃性が求められる部分に幅広く用いられています。身近なところではフライパンの取手や、自動車の部材などに多用されています。
防耐火構造認定も、各種取得しており、壁防火構造認定30分試験にも合格していることから、「大原三千院 円融蔵」「出雲大社 宝物殿」「室生寺 収蔵庫 納経所」等の文化財保護の建築物にも採用されています。
ネオマフォームによるRC外断熱住宅の耐久性
鉄筋コンクリートも寿命は、空気中の二酸化炭素によって、強アルカリのコンクリートが中性化される期間で決まります。そこでネオマフォームを躯体外側に施工する外断熱工法で、RCの躯体を外部環境から保護することで、屋外側の壁は直接外気や、酸性雨に曝されることなく、コンクリートの中性化を大幅に遅らせることに成功しています。
コンクリートの高蓄熱蓄冷容量を活かし、室内の温度変化に対して壁の室内側は、吸放熱させることで、快適な温熱環境を保ちながら省エネにも大きく寄与します。
このように直接空気に触れる部分を、室内側だけにすることでの空気中の二酸化炭素に触れる部分の面積を、半減させています。自然環境の厳しい屋外側を保護するRC外断熱工法は、耐久性の高いRC造の中でも、特別に高い耐久性能を有しています。
また、RCだけにとどまらず、全ての構造の建物について、劣化の大きな原因の一つに直射日光による劣化があげられます。夏季の強い日射を受ける面は、熱膨張して伸び、夜間には逆に縮むという、躯体の伸び縮み、特に日なた側と日陰側とでは伸縮に差が生じます。これを繰り返すことによる躯体精度の劣化も侮れませんし、紫外線による外壁などの劣化がありますが、ネオマフォームを躯体外側に施工する外断熱工法と、さらにその外側に遮熱層、通気層、外装材(ガルバニューム他)を設けることで、外部環境から幾重にも躯体を保護するRC外断熱住宅は、こうした日射の影響による建物劣化を、最小限にとどめることができ、高い耐久性能を発揮します。
まとめ
かつて日本では、地震や台風のような、自然災害に抗うようなことをせず、どこか仮設的な発想があった住宅も技術の進歩で、長期間安全安心快適に過ごすことができる住宅を建設できるようになってきました。戦後の復興期から高度成長期に至る段階で、「スクラップ&ビルド」の社会/経済常識から、21世の第1四半期が終わろうとしている現在、成熟した社会において、住宅も環境にも優しい永く住むための住まいが求められています。一方で地球温暖化という19世紀から、化石燃料を多用してきた地球規模の社会/経済問題が、環境に及ぼす影響として、いよいよ危険ゾーンに入ってきました。現実に猛暑の夏には、大型台風の襲来、線状降水帯の多発による豪雨、冬季の大寒波や、局所的な豪雪という気候が当たり前化してきています。
このような極端な夏季と冬季の気候変動状況下において、今後の住まいづくりを考えると、SDGsの考え方に合致し、高耐久で「異次元の快適環境」をもたらすRC外断熱住宅の普及は大きな意味を持っています。イニシャルコストは確かに高いかもしれませんし、地盤によっては杭などの地盤改良に余計な費用が掛かるかもしれませんが、住まいづくりをお考えの方は、家族の「百年の計」として、未来まで見通して考えれば、RC外断熱住宅を建てることへの投資対効果は大きく、様々なメリットを生みだします。建物の生涯サイクルを考えれば、大幅なCO₂の削減や、省資源化にも貢献できる最先端の住宅です。
株式会社ハウジングラボ
代表取締役 一級建築士 松尾俊朗