RC外断熱住宅の高蓄熱蓄冷性能

RC外断熱住宅の快適性は、単に高気密高断熱だからというだけではありません。コンクリートという素材が持つ蓄熱蓄冷能力を引き出し、快適性の質が異なる「異次元の快適性」を生み出しています。まず、コンクリートという建築資材がなぜ蓄熱蓄冷に優れた材料なのか、原理原則から説明します。

高蓄熱蓄冷容量の素材

住宅の構造躯体を、構成できる建築資材には様々な種類が存在します。木材(在来軸組工法、2×4、木造パネル工法等)、鉄(軽量鉄骨軸組構法、重量鉄骨ラーメン構法等)、レンガ/ブロック(レンガ組積造、補強コンクリートブロック造等)、コンクリート(鉄筋コンクリート造等)などが主な建築構造に関わる建築素材です。

各建築素材の中で高蓄熱蓄冷容量を持ち、なおかつ吸放熱しやすい物性を持った材料、比較的容易に手に入れることができる材料などの、住宅の高蓄熱蓄冷容量として適した建築材料の選択する際の条件は次のような能力を持つ材料です。

高密度

蓄熱蓄冷性能を発揮するためには、まず、高い蓄熱蓄冷容量を得られる材料を選択する必要があります。そのための条件としては、材料の密度が高いことが重要です。高密度の材料は、熱エネルギーを多く吸収・保持することができます。コンクリートという素材は、セメントと骨材(砂利/砂)で構成されているため、極めて密度が高い建築素材です。一般に広く住宅で採用されている木材は、木の細胞という、小さな空間の集合体であるため、材料としての密度は低く(水に浮く)、コンクリートの密度の比ではありません。

高熱伝導率

熱伝導率が高い材料は、熱エネルギーを材料内で均等に分散させることができます。これにより、熱の蓄積と放出が効率的に行われます。熱伝導率の高い素材としては、鉄やアルミなどの金属をすぐに思い浮かべると思います。実際の住宅の構造躯体において一般的に使用される、熱伝導率を比較すると、数値が低いほど熱伝導率が高いのですが、木材は0.08Kcal/mh℃、コンクリートは0.94Kcal/mh℃、鉄は38.6Kcal/mh℃で、コンクリートは木材の約12倍、鉄はコンクリートの41倍です。ところが、実際の住宅に使われる材積は、軽量鉄骨住宅造と鉄筋コンクリート造の住宅とを比較した場合、コンクリートの方が、圧倒的な蓄熱蓄冷容量と大きくなります。また、高蓄熱蓄冷容量を有効に活用するためには、躯体に蓄えた熱を室内空間へ直接熱を供給する必要があります。鉄骨は壁内に在って、直接室内に露出していませんので、絶対熱容量の小ささと相まって、実用上はコンクリートの比ではありません。RC住宅は打放壁を使えばもちろん、漆喰仕上、ペイント仕上、など多彩な仕上げが可能ですが、直接室内側に露出させる仕上ですから、蓄熱蓄冷した熱の吸放出が室内側へ容易にできます。

高比熱容量

比熱容量は、単位質量あたりの熱エネルギーの蓄積能力を示します。高比熱容量の材料は、同じ質量の材料でもより多くの熱エネルギーを蓄積できます。コンクリートと鉄、木材との比熱比較では、コンクリートは鉄の1.8倍、木材の4倍もあり、各構造の住宅での実際に使用するそれぞれの材積を考慮すると、RC外断熱住宅のコンクリートが比熱容量で他を圧倒します。

長時間の熱保持

コンクリートのような蓄熱蓄冷容量の大きな材料は、熱エネルギーを長時間にわたって保持できることができるためこの能力を最大限に生かします。冬季には、比較的温度の高い日中に蓄熱したコンクリートから、室内温度が下がりやすい夜間に、室内側に向けて蓄えた暖かい熱を輻射熱として放射し、夏季には、蓄冷したコンクリートが室内の熱を吸熱します。コンクリートのように長時間の熱保持が可能な材料は、冬の夜間のような室温が下がる時間帯に蓄えた熱を、室内側のみに放出させ、夏には、逆に温度が下がりやすい夜間に、日中暖まった室内の熱をコンクリートへ吸熱させるため、鉄筋コンクリート躯体の外側(屋外側)で断熱施工し、室内側のみへ吸放熱させるようにしています。これがRC外断熱住宅です。

環境への影響

SDGsの視点で、建築材料は、環境に与える影響も考慮する必要があります。蓄熱容量の大きな材料であっても、持続可能性や環境負荷に配慮した材料を選ぶことが重要です。これらの条件を満たす建築材料としては、コンクリートや石材、レンガ、大理石などが候補に挙げられますが、特に耐震性能など、耐災害性能を重視すれば、比較的安価で、質の高い建築材料として提供されている、コンクリートを活用するのが一般的です。建築現場へ搬入し施工するため、生コンクリートの製品規格は、JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」の規定に従って、適合した製造方法及び品質管理を行っています。比較的安価で、広範囲に入手し易く、品質が安定している点がコンクリートを、蓄熱蓄冷材料として採用する理由です。また、特殊な蓄熱蓄冷材料としては、蓄熱塗料や蓄熱コーティングも開発されていますが、住宅全体の温熱環境の主要な部分を担うには、絶対量として不足します。RC住宅はセメントの製造過程でCO₂を発生しますが、住宅躯体としての寿命が長く、その点だけで考えても環境負荷を抑えることができます。RC住宅を建物の外側で断熱したRC外断熱住宅は、蓄熱蓄冷容量大きく、室内環境の温度変化に応じて吸放熱を自然に行い温度発熱機能を発揮するため、RC外断熱住宅の高蓄熱蓄冷容量を活用すれば、今後利用拡大が期待される、自然エネルギーの天候に左右され、安定供給が難しいという課題のクリアにも、貢献できます。太陽光発電のような、環境負荷の低い自然エネルギーを活用する際の問題点を、蓄電池などと組み合わせることで、安定的で効率的な省エネ対策にも寄与出来ます。セメントの製造から住宅としての寿命を終えるまでライフサイクル期間として捉えると環境へ与える負荷を十分に抑えられますし、むしろ寄与することができると認められます。

直射日光への耐性/遮熱性能

日本列島の主要部分は、中緯度エリアに属していますが、南北に長い日本列島では、亜熱帯から亜寒帯までの、広い気候環境エリアを包含しています。北海道や東北の北部エリアにおける温熱環境の改善は、冬季を主眼に置いて、断熱と気密性能と併せて高蓄熱容量を向上させることがポイントです。断熱気密性能/高蓄熱容量を改善することで、快適環境へ向けて大きく寄与します。一方、九州南部や沖縄などの亜熱帯か、それに近い環境のエリアでは、夏季を主眼に置いて、断熱性能よりも、遮熱性能を上げることの方が有効です。例えば北緯26度21分の沖縄県那覇市と、熱帯地方の最も北の緯度である北緯23度26分とは、緯度的に大きな差はなく、真夏には直上に近い強い日差しという太陽からの放射熱に曝されています。沖縄県は、周囲を海に囲われているため最高気温は思いの外低めで32℃程度です。大阪や名古屋が40℃近い最高気温に迄上がることに比べると、低いとは言いませんが、「まだましな温度環境」と言えます。沖縄県の夏は刺されるような太陽からの日射を防ぐことが最も有効で、このような環境では断熱性能よりも、遮熱性能が重視されます。もちろんこれに加えて高蓄冷容量を引き上げることは「異次元の快適性」を生みだします。

人口の大半が暮らす温暖エリアでは、最近の地球温暖化の影響が顕著になりつつあり、温暖エリアとは言い難い温熱環境に,変化しつつあります。夏は猛暑、冬は寒波と大雪というように四季ではなく二季化が進んでいるように、感じられます。従って、断熱気密性能と遮熱性能の双方の性能確保がポイントです。特に高蓄熱蓄冷容量の大きなRC住宅においては、室内の内側で断熱するより、建物の外側で断熱するRC外断熱住宅が高蓄熱蓄冷容量を快適環境づくりに活用することになり温熱環境的にも、省エネ的にも有効です。

RC外断熱住宅の外側を遮熱塗料などで仕上げたり、断熱層の一部に遮熱シートをインサートして遮熱性能を上げることで、直射日光への耐性をあげ、室内の温熱環境を大きく改善できます。

このように、建築躯体構造の材料は、高蓄熱蓄冷容量として有効に使うことをおすすめします。逆に、直射日光に躯体が直接、さらされるようなRC内断熱工法の場合は、構造体が真夏の直射日光を受けて、熱を吸収しますので、おすすめできません。特に蓄熱容量の大きな材料であるコンクリートは、直射日光による熱の吸収を制御するために、これを外側で断熱化するとともに、遮熱化も施し、直射日光への耐性を持たせることが望まれます。RC外断熱住宅をおすすめします。

長期的な耐久性

住宅は長期間にわたって使用されるため、耐久性も重要な要素です。例えば、30才で家を建てるとすれば、人生100年時代ですから、70年間に亘って、耐震性能をはじめ、高断熱気密性能、高蓄熱蓄冷容量、遮熱性能を維持できることが、今後の住まいづくりの重要な指標になってきます。もちろんある程度のメンテナンスは、どのような建築工法で建設したとしても必要なことは、言うまでもありません。

コンクリートのように、蓄熱容量の大きな材料は、社会資本としての住宅という側面から考えても、長期間にわたってその性能を維持できるようにする必要があります。外断熱とすることで自然環境から、鉄筋コンクリートの躯体が保護され、空気中の二酸化炭素や、雨などによるコンクリートの中性化を抑えることによって長寿命化を図ることができます。

施工性とデザインへの適用性

建築材料は施工のしやすさやデザインへの適用性も考慮されます。蓄熱蓄冷容量の大きな材料でも、施工が困難であったり、デザインに合わせて使用することが難しい場合は、実用的ではありません。その点、鉄筋コンクリートという、建築材料は、日本へ導入された1904年以来、120年近くの歴史があります。明治以降現存する最古かつ本格的な鉄筋コンクリ―ト造の建物は、横浜市の日本大通りに面して建つ横浜三井物産ビルで、1911年竣工です。その後全国に広まって学校や病院などの公共建築物から始まり、ビル、マンションなどへ広まりました。今日では、木と並んでスタンダードな建築材料になりました。鉄筋とコンクリートで建物にかかる外力を、引っ張り力と圧縮力に分けて分担するハイブリッド構法は、地震大国の安全安心な建物として広く普及してきました。明治以降有名建築家もこぞって鉄筋コンクリート造での建物を世に送り出し、1960年代から世界的に評価されるようになり、RC(鉄筋コンクリート)造のデザイン性と、その自由度が、群を抜いていることは、日本国内においても一般にも認識されています。

施工の容易性とデザインへの適用性という、要素をバランスさせながら、高蓄熱蓄冷容量の住宅を建築しようとした場合、最もバランスの取れた材料は、間違いなく鉄筋コンクリートいう建築材料です。建築の目的や環境条件を勘案しても、高蓄熱蓄冷材料として、コンクリートを選択し、外断熱化することで、エネルギー効率の向上や、快適な室内環境の実現に貢献することができます。

高蓄熱蓄冷住宅の未来

高気密高断熱住宅は、1970年代から北海道を起点に徐々に全国に拡がり、ペアガラスや、断熱材の必要性は、一般の方々にも理解をされるようになってきました。

一方、ここで取り上げた「高蓄熱蓄冷容量」の快適性能技術は、まだまだ認知度は低く「これからの住宅」で、その意味では、RC外断熱住宅は、未来の住宅あると言っても良いかもしれません。このような高蓄熱蓄冷容量を保有する住宅は、これも温熱環境先進エリアである、北海道が先導的役割を果たしてきましたが、すでに多くの実績を作っています。夏は極端に暑いことで知られている大阪でも、既に居住34年を経た住宅での「異次元の快適性」は実生活においても実証されています。

こうした性能を持つRC外断熱住宅の今後の普及が期待されていますが、さらにその先の未来についての話を少しだけ進めます。

相変化材料の利用

建築材料として見た場合には、非常に高価で、建築ではまた応用されていませんが、着目すべき技術の一つです。相変化材料とは、特定の温度で溶けたり固まったりする高融点材料で、材料の状態変化により熱エネルギーを吸収したり放出したりする事が可能です。 相変化材料は常温では固形のシート状で、一定の温度になると軟化する特性があります。この材料も蓄熱容量を高めるために使用されることがあります。現状では、この材料は熱溶解後の流動性が良いため、表面の凹凸の隙間を完全に埋めることができ、相変時に吸収した潜在熱を利用し急冷効果を発揮します。電子機器関連で世界的な急速な技術開発が進む現代において、多くの電子製品・ウェーハの端部の温度が急上昇されると、冷却が必要になります。そこで選ばれたのが相変材料であり、さまざまなエレクトロニクス製品に応用することが可能です。この材料の特徴は、蓄熱や放熱時に相変化(例:固体から液体への融解)を起こし、多くの熱エネルギーを吸収または放出することにあります。建築での応用までの道のりは未だ遠いという技術ですが、将来の実用化が期待される技術です。

熱ストレージシステムとの統合

蓄電・蓄エネルギー(ESS:Energy Storage System)ソリューションは、電力の供給量が多く、需要が少ないときには蓄電し、供給量が減少し、かつ需要がピークに達した際に電力を供給できるシステムです。電力供給を安定化することで、送電網に負担をかけずに需要にあった電力供給を行います。これと同じ考え方で、建築材料の蓄熱容量を最大限に活用するためには、「熱ストレージシステム」との統合が重要です。建築全体の熱バランスを管理し、蓄熱材料からの熱の供給や放出を制御することで、エネルギー効率を向上させることができます。これはそう遠くない未来に可能になることが期待されます。

まとめ

従来の住宅の温熱環境性能を向上させていく視点は、高気密高断熱化でした。省エネという面に加えて、ヒートショックなどで心疾患や脳血管障害を誘発するという人体への負担を軽減するという、「健康で文化的な生活」のためでしたが、今日では、さらに地球温暖化にブレーキを掛けるため、エネルギーの脱化石燃料化、それに伴う大幅な省エネなどがテーマとなり、日本でも住宅の温熱環境等級に、より上位の等級が2022年10月から(5~7等級)追加され、高性能化が加速されています。

そこで新たな住宅の温熱環境技術としてハウジングラボでは「高蓄熱蓄冷容量」の活用を、RC外断熱住宅で具体策として提供しています。地球温暖化にブレーキを掛けることも、SDGsも、もちろん大切ですが、何と言っても冬季、夏季の屋外温度環境が厳しさを増す中で「異次元の快適性」を提供することが目的です。

高蓄熱蓄冷容量の確保には、100年以上の歴史を持つ、手馴れた建築材料であるコンクリートを利用します。外断熱技術/材料と併せて施工の容易さと確実な性能発揮、そして経年変化に強く、住まい手の生涯の暮らしに必要な時間以上の期間、その性能を発揮しつづけるRC外断熱住宅を、おすすめします。

株式会社ハウジングラボ

代表取締役 一級建築士 松尾俊朗

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