人も家も良い年齢を重ねたいものです
2022/05/25
人間は生れたときは、一人で生きて行くこともできず保護者の庇護のもと大切に育てられて成人します。
大学を出て就職するとしたら、22年間掛かってようやく社会人としてスタートラインに立つことができたということだと思います。
その後も研鑽を積み、人間としても成長を続けることで社会的にも認められ、成熟した大人として充実した日々を送ることができると思います。
また、若いということだけで、もてはやされた時代から、年代層ごとの魅力が理解される成熟した社会になってきたということだと思います。
一方、住宅は「新築の時は良い」が、年月を経ると劣化してしまい魅力を失うというのが従来の考え方でした。
生涯住み続ける住宅は、住まわれるお客様と供に良い年を重ねて行くべきだと思います。
この「良い年齢を重ねられる家」について考えてみましょう。
新築時からあとは劣化するだけという家は愛着が湧かない
住宅の寿命は長らく20~25年程度でしたが最近はさらに10年程度は延長されてきていると言われています。
新築時は、どの住宅もそれなりに「気持ちよく住める」のですが、年月を経るごとに劣化が目立つ家とそうではない家、逆に年月とともに良い味がでて来る家の3つに分かれてきます。
その差は何処にあるのでしょうか。
先ず、建築部材として「劣化しにくい部材」と「劣化する部材」、「経年変化で味が出る部材」に分かれます。
これらを上手に組み合わせることで「経年変化を楽しみながら愛着が湧く良い家」を作ることは可能です。
一般に「劣化しにくい部材」と「経年変化で味が出る部材」はイニシャルコストが高いのですが長寿命です。
またメンテナンス費用も一般的に抑えることもできます。
ではどこにどのような部材を使えばよいのでしょうか。
外部の部材は出来るだけ対候性の高い材料を
年月とともに劣化し易い部位は主に屋根、外壁、開口部という天候に曝される部分です。
この部分はご予算が許す限り「劣化しにくい部材」へ投資した方が住宅の全寿命時間を考えると結局得策だと思います。
屋根材は瓦などの焼成系や高耐久の金属系、外壁もタイルなどの焼成系や天然漆喰、サッシとドアも対候性を考えて断熱アルミサッシやPVC断熱サッシ、木製断熱サッシは出来れば外部はアルミカバー付きとしたいものです。
原則メンテフリーの材料を出来るだけ採用したいのですが、
外壁は外壁材の継ぎ目「目地」のメンテナンスが必要になる場合がありますので注意しましょう。
メンテナンスの補修の直接費用は大きくはないのですが、作業をするための足場に大きな金額が掛かりますので注意しましょう。
ドイツアルプス地方の住宅のメンテ
ガルミッシュパルテンキルヘンという南ドイツの住宅を訪ねたときにご夫婦そろってDIYで外壁のメンテナンス中でした。
木骨ブロック造の外壁にモルタル塗っている建物です。
その上にペンキを塗っていました。
5年に一度くらいの間隔で、いつも夫婦二人でペンキを塗り重ねているのだそうです。
足場は組まずに長い柄の先にローラーをつけて地上からと、2階の窓からで届かないところはないそうです。
今回は白色ペンキを塗っていらっしゃいましたが、淡いピンクがオリジナルカラーだそうです。
気分次第で塗り替えるのが楽しみで、良いとのこと。
愛着が湧くから自分たちで毎回塗っていますということでした。
住宅のメンテナンスはまめにした方が良い
日本人は「建てっ放し」が多く、あまりお客様が住まいのメンテをしない民族のようです。
もちろんボイラーなどの設備系は12~15年くらいで寿命が来ますから専門業者に取り換えを依頼すると思います。
エアコンなどもそういう部類に入りますが、機能を失った場合はメンテせざるを得ませんが、室内外の面材(外壁、内部の床壁天井)は案外放置です。
室内の床壁天井材は良い年を取るような、経年変化が「味を生む」無垢の木材、また、漆喰、珪藻土の壁などもそれなりの風合いがあります。
しかし傷がついても汚れても案外そのまま放置が一般的です。
ドイツの夫婦のように「メンテを楽しむ」という手もあるのですが。
長く住む家はメンテしてこそ愛着が湧く
こう言ういい方をすると日本では「あまり受け入れて貰えない」のですが「住宅はメンテが必要」です。
費用対効果という意味では、新築時に住宅の外部には「劣化しにくい部材」へ投資し、内部には「劣化しにくい部材」と「経年変化で味が出る部材」を組み合わせることでメンテ費用を抑えることになりますが、もっと暮らしを楽しもうとする場合は積極的なメンテ、模様替え、改装へ投資することを考えましょう。
住宅は「投資」に必ず応えてくれます。
投資とは言っても自分たちで可能なところは自分達で、という考え方を持った方が良いと思います。
住いへの投資は暮らしの質が上がります。
適切に手を加えることで家も家族に合わせて成長する
新築し引き渡しを受けたときから半世紀以上住まう住宅が、ただただ劣化していくだけというのでは、暮らしの質が劣化してしまします。
家族の年令や成長に合わせて一緒に良い年を重ねるには「住まいに手をかける」ことです。
リフレッシュしての若返りもあるでしょうが良い意味で年月を感じる家でありたいものです。
不思議なことに家に手をかけると暮らしの質が上がり、暮らしを楽しむようになります。
常に「家族と供の成長する家」であり続けるには住まい手の努力も必要です。
毎年どれくらいの住宅への投資が必要なのか
これに関しての客観的なデータはありません。
筆者の40年の経験値で申し上げれば「30~50万円/年」程度、投資すれば愛着が持てて常にその時代の家族にフィットした住宅であり続けると思います。
これは一つの考え方です。
もちろん限りなくゼロを目指すという考え方もあります。
結局人生の70%の時間を過ごすと言われる住まいへの投資に対して、どう考えるのかということになると思います。
まとめ
人も家も良い年齢を重ねたいというテーマから住宅への手の掛け方という内容に少し偏ってしまいましたが、これから家を建てようとされる方にとって「目に見えない暮らしの質を上げるためのメンテ」という視点をお伝えしたかったということです。
人間も健康で良い年を重ねるためには病気を未然に防ぐための健康診断も必要ですが、もっとアクティブな健康のためにフィットネスクラブに行ったり、気分転換に旅行に行ったりと「自分への投資」を行っていると思います。
良い暮らしを年代と共にもっと楽しむためには継続的な住まいへの投資が必要です。
考え方も様々あると思いますのでお気軽にご相談ください。
info@housing-labo.casa
《執筆者》
一般社団法人 住宅研究所
代表 松尾俊朗
一級建築士