居心地の良い住まいづくりのポイント
2022/03/23
恋人や結婚相手に求める上位の条件に入ってくる「居心地」というのは、家づくりをするに当たっても大切なテーマなのではないでしょうか。
「居心地」の良い住まいづくりにはどのような事が重要なのでしょうか。
「居心地が良い」空間づくり
「居心地が良い」というのは、その場にいることで良い気分になるさま。窮屈な感じがせずに安楽でいられるさま。楽しんでいられるさま。を指します。
つまり、住宅がつくり出すことの出来る「居心地が良い」空間とは、極力「体」に負担がかからない事と「心」へ癒しを与える空間づくりです。
「体」に負担がかからない空間づくりとは
日本には、四季があり季節でかなり気温や湿度、空気環境が変化します。また、朝昼晩と1日を通しても温度差があり、更に、住宅内でも「部屋と廊下(水平)」や「1階と2階(上下)」などに温度差があります。
つまり、「季節温度バリアフリー」「時間温度バリアフリー」「室内(水平/上下)温度バリアフリー」という3つの温度バリアフリーが実現できる住宅性能を取り入れると体にかかる負担を極力軽減する快適環境が実現します。
住宅性能3要件
1.耐震性能
耐震性能は、一見温度差を一定に保つことには関係がないように感じますが、実は地震などから命を守る以外にとても大きな役割を果たしています。
家は、地震や台風、全面道路を走る車など日常的に振動が与えられています。
建築初期に耐震強度があるのは当然の話で、長期に亘って日常的な小さな振動から台風や地震までの揺れに耐えうる強度が無ければ、少しずつ、壁の中にある断熱材がズレ落ちたり、窓と壁の間に隙間が空いてきたり、という事に成り兼ねません。
耐震性能というのは、命を守る以外にも、家の中の快適環境を保つのに切り離せない大切な性能なのです。
2.断熱気密性能
「エアコンの効きが悪くなってきた」という言葉を耳にしたことがあります。
確かに、部屋の中が暖かくなりにくくなっているのは、エアコンの寿命も原因の1つなのかもしれません。
しかし、その前に住宅の断熱気密性能は機能していますか?
断熱材を選択する際に重要なのは、断熱性能の数値だけではありません。
「熱・水・火」への強さを合わせ持つ必要があります。
熱は紫外線劣化、水は壁内結露、火は火災などから、断熱性能の劣化を防がなければ、いくら断熱性能の数値が高くても効果が落ちていくという事です。
また、「施工品質」も重要な要素です。
隙間なく、その断熱材の特性を理解した施工をしていれば、基本的にはどの断熱材も断熱性能は高いのです。
3.耐久性能
いくら耐震性能が高くても、地震や日常の風や車両の通行などによって振動は受けるものです。
また、いくら「熱・水・火」に強い断熱材でも、紫外線や水、火の浸入は防ぐ必要があります。
優れたモノの機能を最大限に果たせるための、壁内結露対策として湿度は通し水は通さない防水透湿シートやテープ、太陽からの輻射熱をはね返す遮熱シートなど様々な対策をして、「耐震性能」や「断熱気密性能」の耐久性を高める工夫がされている事が重要です。
季節や時間、室内(水平/上下)の温度バリアフリーを実現するには、これらの3つの住宅性能が揃って始めて、快適環境を作るための空調設備などが機能するのです。
快適環境4要件
1.調温
2.調湿
3.換気
4.空気清浄
住宅性能が高いことを前提に、快適環境を実現するにはこれらの4つの「調温/調湿/換気/空気清浄」を合わせ持つ必要があります。
よく、「床暖房や個別エアコン」と「全館空調システム」を比較している方を目にしますが、「床暖房は床面の調温」、「個別エアコンは個室の調温」をする設備ですので、4つの機能を合わせ持つ「全館空調システム」とは別物なのです。
床暖房や個別エアコンを採用する場合は、調温以外に調湿/換気/空気清浄をしてくれる設備を採用する必要があります。
最近は、調湿/換気/空気清浄を合わせてしてくれる個別エアコンも出ています。
部屋面積に合った容量であれば、それも選択肢の1つです。
しかし、「部屋と廊下」「1階と2階」に快適環境差が出てしまうのは否めませんし、現代の住宅はLDKの面積がどんどん大きくなり、吹抜を採用した場合には階段や廊下などの面積まで含める必要が出てきますので注意しましょう。
「心」が癒される空間づくりとは
現代の日本は、家事や育児、仕事などの日常からくる小さなストレスの積み重ねや、ネットやSNSなどの情報過多も相まって「ストレス社会」と言われています。
もちろん、それぞれの問題に合った解決策や情報量を強制的にコントロールするなどの対処方法も必要です。
しかし、私たちが人生の約7割を過ごす住まいで何か出来る事は無いのでしょうか。
自然と共存した空間づくり
朝は東から昇ってくる朝日、日中は太陽の光をを浴びて、夜になるにつれて徐々に眠りにつく体勢に入っていく。
一見当たり前に聞こえるような話ですが、実際に街の中を歩きながら建てられている家を見回してみると、この当たり前の自然のメカニズムが住宅内部に上手く取り入れられていない住宅が殆どです。
その多くは、実現しようと思えばいくらでも方法はあったのに、土地や資金の制約、住宅会社の都合などで対応できていなかった場合がほとんどなのだと推測します。
窓の配置計画や調光調色機能のある照明計画などを上手く取り入れ、住宅内部に自然のメカニズムを取り入れる事で、嫌な事があっても、気分を明るくしたり心を休めることが出来る空間づくりを行いましょう。
五感で癒しを感じる空間づくり
人は五感を持った生き物です。
五感の割合は、視覚が87%、聴覚が7%、触覚が3%、嗅覚が2%、味覚が1%だと言われています。
■視覚
五感のほとんどを占める視覚に与える影響は大きく、流行りや好みだけで選択してしまうと、落ち着かない空間になってしまいます。
例えば、「統一された黒の家電」や「観葉植物」、「ディズニーグッズ」などご自身が癒しだと思うモノとそれらのモノとの調和を考えた壁紙や家具にしてあげると、癒しの効果もより高くなります。
反対に、花柄の壁紙にディズニーグッズを飾るとお互いの主張が強すぎて、癒しには成り得ません。
自身がどんなモノに癒されるのか、どのような癒しの空間にしたいのかは、それぞれを分けて考えるのではなくトータルに考えていく必要があります。
その他にも、朝日が差し込む朝の風景や風によってなびくカーテン、太陽の光に照らされる観葉植物やキレイに干されて風に揺らされている洗濯物など、自然が生み出す視覚的癒しもあると思います。
部屋の大きさや部屋数を考える前に、ご自身が新しい住まいでどのように癒される空間が作りたいのかを1度考えてみましょう。
※参照記事 https://housing-labo.casa/category/plan-design/post-886/
■聴覚
癒やされる音楽や気分が上がる曲、嫌な事も忘れるラジオなど、ご自身の心を落ち着かせる音は何なのか、またそれらはどこでどのようにして聴く時間が欲しいのかを考えてみましょう。
キッチンで料理をしながらやお風呂で湯船に浸かりながら、寝室で眠りにつきながらなど、必要な場所に必要な設備を設置し、聴覚的癒しのある空間づくりを行いましょう。
■触覚
日本人は、家の中では靴を脱ぐ文化です。
外国人の方が日本の住宅に初めて入った時に、「日本の住宅は面白い。足の裏で木や畳、タイルやカーペットなどの素材の違いを初めて体験した。」と喜ばれたという話を聞いたことがあります。
日本人は当たり前になってしまっている事かもしれませんが、日本の住宅の床の素材には様々なバリエーションがあり、その床に靴ではなく直接触れることになるので、特にそれぞれの物体の熱伝導率や素材感を考える必要があります。テーブルなど直接手が触れるモノも同様です。
家の中で長く過ごす場所は特に、冬冷たすぎて触れたくなくなる素材や、夏に汗でべたべたとしてしまう素材などを避けた素材選択が大切です。
■嗅覚
体臭や柔軟剤の香りやルームフレグランスなど、私生活の中で臭いを気にして生活されている方は多いと思いますが、五感の中ではたったの2%の割合だと言うので驚きです。いかに視覚のウェイトが高いことが分かります。
一方、嗅覚は外部から得られる情報としてのウェイトは低いのですが直接脳の奥深く本能部分に作用するのでインパクトはストレートです。好き嫌いがはっきり表れます。
最近では、アロマやお香、ルームフレグランスなど様々な種類のグッズが出ていますが、それらをいつどこでどのように使いたいのかを考え、大好きな香りに包まれる癒しの空間づくりを行いましょう。
反対に、靴やトイレの嫌な臭いは消臭効果のある壁材を使うなどして対策しましょう。
庭に大好きな香りの花や植物、ハーブを植えるのも楽しいですね。
■味覚
食べるという事は、体と心を作る大切な事ですが、五感の中では1%にしか過ぎません。
これは、味も大切ですが、やはり料理の彩や盛り付け、料理を照らす照明の色温度など視覚がかなり補っているという事が分かります。
そのため、面積の確保だけに留まりがちなダイニング空間の窓の配置計画や壁紙の色、インテリアコーディネートや照明計画などをしっかりすることで、家族での会話も弾み、楽しい食事の時間となり、心が癒される時間となるのです。
※参照記事 https://housing-labo.casa/category/plan-design/post-646/
まとめ
「居心地の良い家」。
それは、「体」に負担がかからない事と「心」へ癒しを与える空間を叶えることで実現します。
考え方や価値観が多様化している世の中で、人によって正解は異なる為、1つの解答をお伝えすることは困難ですが、ご自身にとっての居心地の良い家づくりを探し、こころ豊かな暮らしが送れる住まいを実現しましょう。
《執筆者》
一般社団法人 住宅研究所
「暮らし視点の住まいづくり」研究開発担当
主任 谷口真帆香