人生100年時代の「60才からの住まいづくり」

人生100年時代と言われながらも、従来は、60才以降の生活を意識し始める、50才台半ばから上の年齢層のお客様と、今後のお住まいについて、お話をすると、「そうは言っても、若い時代の住まいづくりの時と違って先行きは短いから」ということを言われる方が多く、住居については、補修程度の最低限のコストで済ませたいと、おっしゃられる方も多いことに、驚かされます。
確かに30才で家を建てたとして、65才を迎えるまでには、35年間という時間が経過しています。
平均余命では「あと20年位」と、お客様は頭で何となく分かっておられるとは思います。
平均余命まで「20年位」というのが長いのか、短いのか受け取り方だと思いますが、ともかく「先行き短い」というご発言とは裏腹に、「将来が不安だから」、大きな出費を避けて、出来るだけお金を掛けずに、簡単なリフォームで、済ませてしまおうというのが、従来の60才からの住まいづくりの一般的な考え方でもありました。

一方、毎年健康診断を受けて、病気が見つかっても、健康保険適用内でも適切な治療を受け、肺炎ブドウ球菌他の高齢者が接種すべき予防接種もし、当たり前のことですが、生活習慣病にならないように、運動と食事に、ある程度以上の注意を払えば、普通に100才くらいまで寿命を延ばせる時代になってきたということです。

1991年に100才を迎えた「普通」の双子姉妹、「きんさんぎんさん」が、TVコマーシャルで、一世を風靡し「人生100年時代」を、身近に感じるようになってから、既に33年間の年月が流れました。
その間、長寿人口が増加し、2024年時点で、100才以上の人口は9万2千人、90才以上は206万人を超え、急増中です。

「人生100年」が現実のものとなってきている中、60才からの住いづくりは、「もし、100才まで生きたとしたら」という時間的長さを、住いづくりの考え方のベースに置くべきです。
仮に65才から100才までの35年間の暮らしを前提に、住まいづくりをする場合を考えれば、30才で家を建ててから、65才までの「35年間」と同じ、長期間の時間を保有していることになります。
このように「100才まで生きたとしたら」という充分にリアルな前提で考えるのが、「60才からの住まいづくりの一つ目のポイント」です。

この35年間という十分に長い暮らし時間を、ただ生きているだけの「生命の寿命」とするのではなく、自分の思うことをして過ごすことができる「健康寿命」とすることが、まず住宅に求められます。
「①安全性(耐震/制震性能)」と「②快適性(脳/心臓血管の疾患が起こりにくくするための温熱環境性能)」の2大住宅性能を「高レベルで実現」し、この「③高性能を35年間に亘って維持できる(高耐久性能)」という3つの「高性能化」は、必須です。
これが「60才からの住まいづくりの二つ目のポイント」です。

南海トラフなどの巨大地震が予測されている昨今、高い耐震/制震性能は、地震発生時の安全を確保するだけではなく、長期に亘って、性能劣化の少ない住まいを造ることは、必須条件です。
繰り返す強い地震にも耐え、避難所での生活を回避して、感染症などの災害関連の疾病を避けるためにも必須です。
高い温熱環境性能は、万が一の災害時にも、僅かな自然エネルギーで快適温度環境を維持できるという、高齢者の災害サバイバル時の日常生活の質の維持には必要不可欠な性能です。

「人生100年」が仮に不慮事故や、思いがけない疾病で実現できなかったとしても、仮にご主人が平均余命の85才で寿命が尽きたとしても、奥様は、ご主人様より、5年平均余命は長いですし、住宅の性能寿命は、それよりさらに長く、性能維持はできるでしょう。
奥様にとって、安心快適に、人生を楽しむことができます。
ちょうどそうした時期は、子世代から孫世代の現役時代の交代期でもあり、子世代、孫世代の何れかが、住宅を引き継で、住み続けることも可能ですし、例え、その住宅を売却する事態になったとしても「長期間安全快適性能を維持できている住宅」は、売主側に有利に働くことでしょう。
多世代に亘って受け継ぐことができる住まいは、SDGsの視点で見ても、住宅を建てた世代だけにとどまらず「受け継ぐことができる住まい」として、世代を越えて価値を持つ住まいづくりでもあります。
これが「60才からの住まいづくりの三つ目のポイント」です。

暮らしを楽しむということを前提に考えれば、「生命としての寿命100才」≒「健康寿命100才」としなければ、人生を最後まで全うし、楽しめたとは言えません。
現状では、健康寿命は生命としての寿命より8年も短いとされています。この対策も必要です。
仮に30才で住宅を新築して以降、現役時代は、相当に忙しい方でも6割の時間を住居内で過ごしています。
65歳以上の方々が過ごす時間の、約9割は住居内です。
現役時代から人生を終えるまで(平均余命85才であっても)の生涯総時間の約7割を住宅内で人は過ごしています。
この時間を、快適な住環境にすれば健康寿命は充分に伸ばせます。
高齢者が、心臓疾患や脳血管系の疾患を患わないためには、「高いレベルの温熱環境」はもちろん必須でが、この高いレベルの温熱環境性能は幼い子どもたちにも、働き盛りの年代にも必要な基本性能です。
高齢になって夏涼しく、冬暖かい暮らしは、体だけではなく、気持ちも前向きになり、こころ豊かな暮らしを満喫できることにもつながります。

現実的には最大「100年の有限時間」が、人生ですから、この人生をこころ豊かに過ごすことこそ、人生の満足度と価値を高めます。
人生という時間の大半を過ごす「器としての住まい」への投資が、最も効果的で「価値ある投資」という考え方に、自らが、気づいていただくことです。
これが「60才からの住まいづくりの四つ目のポイント」です。

一般に、「老後」という概念に縛られていて、現役を退いたら「自由な時間を十分に持てる」のだという発想と、これからの暮らしを、もっと楽しもうという切り替えができていません。
むしろ、ご自身が衰えていく時間を過ごすのが残りの人生だという、「老後の概念的な負のイメージ」に引きずられています。
従って「バリアフリー」「手摺」「寝たきりになったら困るからと平屋」という現状の子育てを終えた自宅の減築要求のリフォームや、「寝室だけ一階にあれば、なんとかなる」から、小さくても良いから出来だけ、住宅には「費用を掛けたくない」という「マイナス発想」の建替要求しか出て来ません。
その発想に従ってしまうと、小規模リフォームか、小さな建替住宅というように、マイナス方向に動いてしまうことで、ご自身の人生で、最高に楽しめる時間を、無駄にしてしまいかねません。

60才からの住まいづくりを「消費」として捉えて、住まいづくり金額を抑える視点で進めるのか、「ご自身の健康と、こころ豊かな人生への『投資』」という視点に気づいて、明るい未来の住いづくりへ進むという「発想の切換」ができるかが、大きな分かれ道です。

日本の個人金融資産の総額は約2200兆円で、その6割は60才以上が保有しておられます。
ご自身の暮らしへの投資に気づいていただくことです。
これが「60才からの住まいづくりの五つ目のポイント」です。

こころ豊かに自由に過ごせる時間を楽しむ

下図のように、仮に30才で、家族のための住宅を建て、子供も自立の時期を迎えるまでの35年間を過ごした家は、新築当時の技術水準を勘案すれば、断熱気密性能は低下し、耐震性能は、かなり劣化している状態です。
この場合、65才で、最新の断熱気密性能、耐震性能に加えて、性能劣化を抑えて人生100年時代を、こころ豊かに楽しく、全うできる住宅は必須でしょう。

最初の住宅を建ててから、100才までの、70年間の最初の35年間は現役バリバリで仕事も忙しく家で過ごす時間は少ないように感じていたとしても、実際には、この35年間という時間の6割を住宅内過ごしています(睡眠時間含む)。
65才で、その後の自由に使える時間と、その時間が健康で思い通りのことができる時間とするためには、2度目の住宅を建てるか、フルリフォームが必要です。
65才からの人生時間の9割を過ごすのが、住宅内での暮らしですから、衣食住という、生きていくために必要な要素の中で、最も大切なのは住宅で、人生を豊かに過ごす空間づくりです。
安全安心快適で、こころ豊かなコトをして過ごす住宅への投資が人生で最もコストパフォーマンスの高い投資です。

従来は、定年退職後という「老後のイメージ」は、「もう終わってしまった人生」という、残り火のような時間として、65才以上の生活を「概念的に捉えて」いる方々が多く、あまりにも、もったいない考え方だったと思います。
確かに、多くの先輩たちはそうであったかもしれませんが、「人生100年時代」の65才以上の暮らしは、「最も楽しく、こころ豊かな時間を過ごせる時期」です。

65才定年後の楽しい暮らしを、自らへ触発して気づく

65才で、定年を迎え、平均寿命の85才までの、人生と仮定すれば、あと20年という時間の「自由時間」(食事や掃除、入浴といった生きる為に、必要な時間を除いた、ご自身が自由に使える時間:14時間/日(厚生労働省))と、現役時代の「総労働時間」(通勤時間、休憩時間、昼食時間除く、残業含む正味の就労時間:9.5時間/日(厚生労働省))は「ほぼイコール」です。
それを考えても、これからの時間は、充分にあります。

65才の男性の、平均余命までの20年間の自由時間の長さに気づいていただいても、「何をしたらよいか分からない」、どうせ老後だから、「老人会に入る?」「TVの番人になる?」という程度しか思いつかないというのが、一般的な老後の生活イメージで、あまり楽しそうではない暮らしだろうなという、「概念」しか、持ち合わせていないのが「普通」の65才です。平気です。大丈夫です。

先ず、ご自身で、ご自身が「楽しい暮らし」、「ワクワクする暮らし」に気づいていただきたいと思います。
60才位になると周囲の人から、引退後「何がしたいですか」などと、「質問」されても、引退後の楽しい日常生活など、ほとんどの方は、現役を退くまで、あるいは退いた後も、想像したことすらありませんから、答えることはできません。「愚問」ですね。

そこで、「パッと見て分かる楽しい暮らし」を、ネットや、好きな分野の雑誌などで、「ビジュアルで探す」という、自らへの「触発」が必要です。
家以外の場所で行う楽しいこともあるでしょうが(海外旅行など)、一般的に、お金が掛かる割には楽しむ時間は短いというものが多いと思います。
それはそれで楽しいと思いますし、大切だと思いますが、65才からの、人生の9割を過ごすのが自宅です。
自宅でやってみたいコトを見つけるのが、最も有効だと思います。
建物の広さ、部屋数は子育てを行ってきたのですから、フルリフォームでも十分可能です。
もちろんフルリフォームなどと異なり、建替なら、フリーハンドで思いきったプラン空間も創れます。

従来の生活の中心であった仕事とは別の世界で、関心がありそうな分野について、ビジュアルな情報で、楽しく、こころ豊かな暮らしに気づく触発を、自らに行うこと。
これが「60才からの住まいづくりの六つ目のポイント」です。

日常の暮らしを楽しむ住まいづくり

日常の衣食住を楽しむ暮らしがベースです。

自宅で過ごす時間が多くなり、長年連れ添ったパートナーだからと、鬚も丹念に剃らず、無精鬚のまま。
服装にも無頓着、食事もカップ麺で済ますなどという生活は、パートナーにも失礼ですし、日常の暮らしを楽しむ土台が無いようなものです。
服装も正装は不要ですが、普段着でも、パートナーとご自身に似合う服を選んで買って着て、食事も一手間かけて食事を創る調理も心がけましょう。
その調理の場は、伸びやかで、明るいキッチンにして、一緒に作ることができるレイアウトのなどの工夫で、日常の食事そのものをもっと楽しみましょう。

キッチンという場で、イタリアン昼食をパートナーと二人で、家庭菜園から摘んできた野菜も使って、創って、お皿も、グラスも、料理とワインに合わせて選んでとる食事の時間は、それだけでも、こころ豊かな時間です。
そうした日常の上質な暮らしの上に、ご自身が見つけたやりたいコトの時間、パートナーとともにやりたかったことに充てる時間など、それぞれに最適な空間をカラーコーディネートや、小物までの設えを考えて創りましょう。
日常の時間を、上質で、すこし特別にしながら、その上に、ご自身の「世界」を創っていくのも楽しいでしょう。
例えば、プラモデルも、塗装や、細部のシーンをこだわって作りこみ、ジオラマや映画のセットのような小さな空間を創って、SNSや専用サイトに投稿するのも、楽しいかもしれません。こころ豊かに暮らしましょう。

60才台という年代の住まいづくりは、プロ側のスタッフが、みんなご自身より年下で、人生経験も浅く、相談しても何となく「ズレ」ている、頼りないなあと感じることもあるかと思います。
若いご夫婦を中心にした、住まいづくりしか進めてこなかった、住宅業界の問題点でもあります。
また、住宅業界の多くの会社は、若いお客様には「提案」という名の押し付けが主流でもあります。これも問題です。
設計という別の角度で考えても、自由設計という名のもとに、「お客様に答えを求める」住まいづくりで、「お客様に、指示されれば何でもできます」という姿勢が、一般的です。
これでは、人生で最も自由時間があり、こころ豊かな暮らしを創れる住まいづくりのはずですが、上手くは行きません。
お客様の方が、どの営業、どの設計よりも人生経験、生活体験が多いのですから。

Casa Laboでは、住まいづくりも、人生経験も豊富で、暮らし視点で住まいづくりを進めてきた、ベテランの「住いづくりパートナー」(Casa Laboのスタッフは、全国ブランドの大手ハウスメーカーや、地元大手住宅会社などの住宅のプロを教育指導してきた「住まいづくりのプロの先生」)が、ご一緒に、こころ豊かで楽しめる暮らしを創り上げる対応をしていますので、特に55才から上の年齢の方の住まいづくりには、是非、Casa Laboへお問い合わせください。
全国どこにお住まいのお客様へも、Zoomでのご相談、設計も、承っています。

まとめ

人生100年時代を、前提に今後の住いづくりを考えると、若いころに、新築住宅を建てられてから、生涯に亘って最長70年間を過ごす住宅は、その時間の長さを勘案すると、55~70才位の間で建替か、フルリフォームが必要です。
しかも、若いときに、新築されてから生涯時間の7割、65才以上の期間に限れば、人生の9割の時間を過ごす住宅です。
「暮らしの器としての住宅」は、家族の成長と変化にリンクし、住まわれる方々の成長、ライフステージの変化、価値観に基づいた進化を必要としています。
木造住宅の場合、新築時から折り返し点の、築35年前後で、建物というハード面も、新築当時の建築技術を考えると大幅に手を入れないと、その先の人生に、求められる高いレベルの耐震/制震性能、温熱環境性能、さらに、その性能が落ちにくくする技術の投入など新築に匹敵するか、それ以上のハード面のアップデートのためにも、フルリフォーム、或いは、新築(建替、住み替え)が必要になります。
また、これから先のライフステージを楽しみ、こころ豊か暮らすためには、間取りや採光、収納の工夫などのソフト面も、十分に考慮する必要があります。
また、子や孫たちが集まるシーン(年に数度しかないかもしれませんが)なども想定して、新たな人生ステージの器に進化させる必要があります。
もちろん、愛着のある既存住宅の利用可能な部分は、十分に活用してコストも抑えるようにすることも大切です。
一方で建替えた方が、これからの最適な暮らしに合っているかもしれません。専門家と一緒に考えるという住まいづくりが大切です。

60才からの住いづくりの要として、ご提示した六つのポイントの具体策も含めて、お客様ごとの、住まいづくりに対応し、結果として、住宅をお持ちの場合や、これから土地を探しての住まいづくりなど、それぞれの住まいづくりの条件を勘案して、ご一緒に考え、適切なご判断をすることが必要です。

1、建替/住替・新築
2、新築同等以上のフルリフォーム

を、適切に選択して、最適な住まいづくりを進めていただければと思います。
結果としてご満足いただける、暮らしがご提供できれば幸いです。
先ずは、お気軽に、お問い合わせ、ご相談ください。

株式会社ハウジングラボ
代表取締役 一級建築士 松尾俊朗

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